平成21年度研究成果報告書

プロジェクトID番号 07-13

未だ有効な治療法がない免疫、腫瘍性疾患に対する抗IL-6受容体抗体による新規治療法の開発に関する研究

総括研究代表者
岸本 忠三 (大阪大学生命機能研究科・教授)
分担研究代表者
吉川 秀樹 (大阪大学医学系研究科整形外科学・教授)
分担研究代表者
田中 敏郎 (大阪大学医学系研究科呼吸器・免疫アレルギー内科学・准教授)
分担研究代表者
大黒 伸行 (大阪大学医学系研究科眼科学・准教授)
分担研究代表者
吉田 光宏 (大阪大学医学系研究科呼吸器・免疫アレルギー内科学・助教)
分担研究代表者
室田 浩之 (大阪大学医学系研究科皮膚科学・助教)
分担研究代表者
中岡 良和 (大阪大学医学系研究科循環器内科学・助教)
  1. プロジェクト開始から現在までの研究の要旨

    未だ有効な治療法がない免疫、腫瘍性疾患に対する抗IL-6受容体抗体による新規治療法の開発を目指し、以下の事を明らかとした。

    • 抗IL-6受容体抗体の臨床研究を、AAアミロイドーシス1例、再発性多発軟骨炎2例、強皮症3例、反応性関節炎1例、乾癬性関節炎1例、成人型スチル病1例、リウマチ性多発筋痛症1例、remitting seronegative symmetrical synovitis with pitting edema (RS3PE)1例、ベーチェット病1例、後天性血友病1例、大動脈炎症候群4例、多発性筋炎1例、強直性脊椎炎1例において施行した。AAアミロイドーシスでは、3回の投与により腸管に沈着したアミロイド線維は消失した。再発性多発軟骨炎において、上下気道症状は安定し、ステロイド剤の減量が可能となった。強皮症において、皮膚硬化度値は減少した。反応性関節炎では、2回の投与により関節炎症状は消失したが、乾癬性関節炎では、症状の軽減に至らなかった。大動脈炎症候群、リウマチ性多発筋痛症、RS3PEにおいても、症状は安定し、ステロイド剤の減量が可能となった。ベーチェット病においては、7回の抗体投与により寛解に至り、視力も一部回復した。後天性血友病においては、凝固第8因子活性は安定し、ステロイド剤の減量とともに免疫抑制剤の中止が可能となった。
    • 強皮症、ブドウ膜炎、多発性硬化症の動物モデルでの抗IL-6受容体抗体の有効性が明らかとなった。
    • マウスにおけるナイーブT細胞のTh17細胞への分化過程において、aryl hydrocarbon receptor (Ahr)が発現し、AhrがSTAT1の活性を制御することでTh17細胞への分化に関与することが明らかとなった。また、マクロファージにおいて、LPSの刺激でAhrが発現誘導され、AhrはSTAT1と結合することでNF-kBの活性を抑制し、IL-6やTNF-?の発現を抑制する事が明らかとなった。
    • 骨軟部腫瘍臨床例のIL-6値を測定し、高値を示した滑膜肉腫症例より樹立した細胞が、間葉系、血液系の両者に分化可能な多能性幹細胞であることが明らかとなり、滑膜肉腫の発生、進展、肺転移におけるIL-6シグナルの関与が示唆された。
  2. 平成21年度(単年度)の研究の要旨
    • マクロファージにおいて、LPSの刺激でaryl hydrocarbon receptor (Ahr)が発現誘導され、AhrはSTAT1と結合することでNF-kBの活性を抑制し、IL-6やTNF-?の発現を抑制する事が示された。Ahr KOマウスでは、dextran sodium sulfate誘導性腸炎は悪化し、一方collagen-induced arthritisでは関節炎症状は抑制された。
    • 難治性免疫疾患に対する抗IL-6受容体抗体の臨床研究を、再発性多発軟骨炎2例、強皮症3例、反応性関節炎1例、乾癬性関節炎1例、リウマチ性多発筋痛症1例、remitting seronegative symmetrical synovitis with pitting edema (RS3PE)1例、ベーチェット病1例、後天性血友病1例、大動脈炎症候群4例、多発性筋炎1例、強直性脊椎炎1例において、継続もしくは開始した。再発性多発軟骨炎では、上下気道症状は安定し、ステロイド剤の減量が可能となった。強皮症において、皮膚硬化度値は減少した。反応性関節炎では、抗IL-6受容体抗体は著効し、2回の投与により関節炎症状は消失したが、乾癬性関節炎では、関節症状の軽減に至らなかった。大動脈炎症候群においても、血清MCP-1の低下とともに症状は安定し、ステロイド剤の減量も可能となった。リウマチ性多発筋痛症とRS3PEにおいては、活動性指標は低下し寛解に至った。抗TNF製剤による治療に抵抗したベーチェット病において、抗IL-6受容体抗体の7回の投与により、活動性指標は6から0(寛解)となり、また視力も一部回復した。後天性血友病においても、抗IL-6受容体抗体により、凝固第8因子活性は安定し、ステロイド剤の減量とともに免疫抑制剤の中止が可能となった。
    • 動物モデルにおいて、Experimental autoimmune uveoretinitisマウスでは抗IL-6受容体抗体の投与により、抗原特異的Th1とTh17細胞が抑制され、一方、制御性T細胞の誘導は増強していた。強皮症モデルでは、抗体の投与で、皮膚病変部の肥満細胞数および活性型線維芽細胞数が有意に減少することが観察された。
    • レックリングハウゼン病由来の神経線維腫組織初代培養細胞がIL-6、可溶型IL-6受容体を高産生していることが明らかとなり、IL-6が病態に関与する可能性が示唆された。
  3. 研究分担体制
    1. IL-6の免疫調節細胞分化作用に関する研究
      (総括研究代表者 岸本 忠三 大阪大学生命機能研究科教授)
    2. 悪性軟部腫瘍に関する研究
      (分担研究代表者 吉川 秀樹 大阪大学医学部教授)
    3. 免疫疾患に対する抗IL-6受容体抗体療法の確立
      (分担研究代表者 田中 敏郎 大阪大学医学部准教授)
    4. 加齢黄斑変性および眼炎症疾患に対する抗IL-6受容体抗体の応用の研究
      (分担研究代表者 大黒 伸行 大阪大学医学部准教授)
    5. 難治性炎症性肺疾患に関する研究
      (分担研究代表者 吉田 光宏 大阪大学医学部助教)
    6. 皮膚科疾患における抗IL-6受容体抗体の臨床応用に関する試験研究
      (分担研究代表者 室田 浩之 大阪大学医学部助教)
    7. 大動脈炎症候群における抗IL-6受容体新規抗体療法に関する研究
      (分担研究代表者 中岡 良和 大阪大学医学部助教)