平成21年度研究成果報告書

プロジェクトID番号 06-47

人工万能幹細胞の創薬および再生医療への応用に関する研究

総括研究代表者
山中 伸弥(京都大学 iPS細胞研究所 所長)
  1. プロジェクト開始から現在までの研究の要旨

    本プロジェクトは、各種疾患モデル動物や、さまざまな遺伝的背景、疾患背景を有するヒト細胞からiPS細胞を効率良く樹立する方法を確立し、また、同細胞から分化させた神経細胞、心筋細胞、肝細胞などの細胞を、薬効および毒性の評価に利用し、さらに安全性を確保することにより各種疾患への移植療法に利用することを目的とする。

    2006年、マウス皮膚由来線維芽細胞にレトロウイルスベクターを用いて4因子(Oct3/4、Sox2、c-Myc、Klf4)を導入することで、胚性幹(ES)細胞に類似した人工多能性幹細胞(iPS細胞)を樹立することに成功した。本プロジェクトにおける、これまでの研究で、マウスiPS細胞の選別指標を変更することで、よりES細胞に近い多能性を有するiPS細胞の樹立に成功した。腫瘍形成のリスクを低減するため、c-MycなしでのiPS細胞の樹立を、プロトコールの工夫により達成した。マウスの場合と同じ4因子導入により、成人皮膚線維芽細胞からiPS細胞の樹立を達成した。ヒトiPS細胞は、形態や増殖特性や分化能はヒトES細胞とほぼ同等であった。またiPS細胞が、真に体細胞に由来すること、また、iPS細胞の誘導には、染色体の特定位置への因子導入は不要であることも明らかにした。さらに、プラスミドベクターによる4因子導入により外来遺伝子のゲノムへの挿入のないマウスiPS細胞樹立に成功した。

    またp53-p21径路を阻害することによりリプログラミングの効率が大幅に向上することを明らかにした。低酸素で培養を行うことによりiPS細胞へのリプログラミング効率が改善することを明らかにした。

    複数のマウスiPS細胞から分化誘導した神経細胞のマウスへの移植実験により、未分化細胞の残存による奇形腫の発生率はiPS細胞のクローンにより異なり、iPS細胞の由来の違いに依存していることが明らかにした。

  2. 平成21年度(単年度)の研究の要旨

    ES細胞は様々な細胞へと分化できる万能性(多能性)を維持したままほぼ無限に増殖することから、神経細胞や心筋細胞などを大量に準備し、創薬や再生医療に応用することが期待されている。しかしヒト胚から樹立するES細胞の利用に関しては慎重な運用も求められている。私達は、マウスおよびヒト皮膚由来線維芽細胞に4因子(Oct3/4、Sox2、c-Myc、Klf4)を導入することにより、胚性幹(ES)細胞に類似した人工万能幹細胞(iPS細胞)を樹立することに成功した。

    21年度はp53遺伝子が体細胞からiPS細胞へのリプログラミングの障壁として働いていることを明らかにし、p53-p21径路を阻害することによりリプログラミングの効率が大幅に向上することを明らかにした。また培養環境によるiPS細胞誘導効率の検討により低酸素で培養を行うことによりiPS細胞へのリプログラミング効率が改善することを明らかにした。

    また自己の皮膚線維芽細胞を不活化することによりフィーダー細胞とし、自己フィーダー細胞上でiPS細胞誘導が可能であることを見出した。

    複数のマウスiPS細胞から分化誘導した神経細胞のマウスへの移植実験により、未分化細胞の残存による奇形腫の発生率はiPS細胞のクローンにより異なること、またiPS細胞の由来の違いに依存していることが明らかになった。

  3. 研究分担体制

    人工万能幹細胞の創薬および再生医療への応用に関する研究
    (山中 伸弥 京都大学 iPS細胞研究所 所長)
    *本プロジェクトに分担体制はない