平成21年度研究成果報告書

プロジェクトID番号 06-12

セマフォリンを標的とした多発性硬化症治療と診断キットの開発に関する研究

総括研究代表者
熊ノ郷 淳 (大阪大学微生物病研究所・教授)
  1. プロジェクト開始から現在までの研究の要旨

    本研究では、多発性硬化症の診断および治療法を確立するため、Sema4Aを中心としたセマフォリン分子群を標的に、1)血清セマフォリン測定システムの開発とそれを用いた多発性硬化症の発症及び再発予測診断法の確立、2)セマフォリンを標的とした多発性硬化症治療法の確立を目指している。高感度のSema4A測定システムを確立するため、Sema4A欠損マウスに高純度リコンビナントヒトSema4A蛋白を免疫することにより、高力価でかつヒト及びマウス・ラットのSema4Aに反応する抗Sema4Aモノクローナル抗体を新たに樹立し、これらの抗体の認識部位の検討を行った。次に、異なる認識部位を有するクローンを組み合わせた血清Sema4A測定ELISAシステムを構築するとともに、簡便な血清Sema4A測定キットの試作品を作成している。また多数の多発性硬化症臨床症例のデータベース化のための症例管理ソフトも作成している。その結果、Sema4Aが多発性硬化症のリスクファクターとなること、Sema4A高値の患者においてはTh17シフトが見られることを見いだした。さらに、多発性硬化症治療上最適な抗体投与プロトコールを確立するため、実験的自己免疫性脳脊髄炎(experimental autoimmune encephalomyelitis; EAE)の系で種々の抗Sema4A阻害抗体投与実験を行い、抗Sema4A中和抗体のEAE発症抑制効果を確認するとともに、セマフォリン及びセマフォリン受容体欠損マウスを用いた解析から、セマフォリンシグナルのEAE発症への関与の詳細も明らかにしている(Nat Cell Biol., 8:615-622, 2006, Nature 446:680-684, 2007, Nat Immunol. 9:17-23, 2008, Int Immunol.. 20:413-420, 2008, J. Immunol. 184: 1499-1506, 2010. Nat Immunol. in press)。

  2. 平成21年度(単年度)の研究の要旨

    前年度に引き続き、セマフォリン測定キットの標準物質として用いるリコンビナントSema4A蛋白の凍結乾燥化を行い、乾燥化後溶解液に融解しても測定可能かどうかを検討した。また凍結融解により測定値の変動、凍結時の保存条件、保存期間の検討も行い、血清Sema4A測定キットを作成した。Sema4A測定の有効性を示すために、全研究期間中同一MS患者について増悪・寛解時の検体を経時的に採取・測定・保存し、MS患者血清管理ソフトにてデータを管理しつつ、同ソフトを用いた統計学的解析を行った。またセマフォリンのMS病態における病的意義については、Sema4A高値を呈するMS症例の末梢血リンパ球のSema4Aの発現をFACSで検討し、血清中のSema4Aの主なソースが樹状細胞であることを同定した。更にSema4A高値を呈するMS症例の末梢血リンパ球をパーコール法により回収し、セマフォリン分子および免疫調節分子の発現をフローサイトメトリー法により検討するとともに、リンパ球のサイトカイン産生能についても抗CD3抗体で刺激しサイトカイン産生能をELISA及び細胞内サイトカイン染色により正常人と比較・検討し、MS患者においてはTh17型にシフトが見られることを明らかにした。更に、臨床上重要なエッフェクター相に関与するセマフォリンの検討を行い、中枢神経内でのEAE炎症相へのセマフォリンの関与も明らかにしている(J Immunol. 184:1499-506, 2010, Nat Immunol. in press)。

  3. 研究分担体制

    研究代表者
    熊ノ郷淳 大阪大学微生物病研究所 教授
    多発性硬化症におけるセマフォリンの病的意義の解明と治療・診断法の開発

    研究者
    竹ヶ原宣子 大阪大学微生物病研究所 助教
    多発性硬化症におけるセマフォリンの病的意義の解明と治療・診断法の開発

    研究者
    奥野龍定 大阪大学微生物病研究所 助教
    多発性硬化症におけるセマフォリンの病的意義の解明と治療・診断法の開発

    研究者
    中辻裕司 大阪大学大学院医学系研究科神経内科学 講師
    多発性硬化症の臨床研究

    研究者
    杉山憲司 日本ベーリンガーインゲルハイム(株)
    分子生物学研究部主任研究員
    高感度セマフォリン検出システムとセマフォリンを標的とした多発性硬化症治療薬の開発

    研究者
    森谷 真之 大阪大学大学院医学系研究科神経内科学 研究員
    多発性硬化症の臨床研究