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お知らせ

「ヒト肉腫のマ-カ-であるGPC5の発現をin vitro transformationの系で発見」に係る論文掲載について

2015年5月21日

 国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 医薬基盤研究所 共用機器実験室の竹内昌男客員研究員、竹内喜久子客員研究員、赤木謙一副室長、プロテオームリサーチプロジェクトの朝長毅プロジェクトリ-ダ-と難病資源研究室(現・京都大学霊長類研究所)の東濃篤徳特定研究員らは、東京大学(分子細胞生物学研究所)、国立成育医療研究センタ-(再生医療センター)、株式会社A-CLIP研究所の研究者らとの共同研究により、ヒト間葉系幹細胞(UE6E7T-3細胞)が長期間培養により、がんの一種である肉腫の性質を獲得した細胞(U3-DT細胞)に変化することを見出した。また培養期間毎の全遺伝子発現変化解析により、GPC5遺伝子がU3-DT細胞に特異的に高発現していることを発見した。これらの研究成果が米科学雑誌PLoS ONE電子版に掲載されましたのでお知らせします。

【原題】Transcriptional Dynamics of Immortalized Human Mesenchymal Stem Cells during Transformation

【邦題】継代ステージ毎のヒト間葉系幹細胞の全遺伝子発現変化解析

【掲載紙】PLoS ONE  (2015年5月19日、オンライン公開)
   http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0126562

【概要】
 正常細胞のがん化に伴って変化する全遺伝子発現の解析から、発がん機構における蛋白質分子レベルでの重要な情報を得ることができる。過去の研究において発がん機構の説明を数個から数十個の発がん関連遺伝子の解析により行っている報告は数多くあるが、遺伝子が発がん過程のどの段階で発現様式を変え、どのような遺伝子が過剰発現されたときに肉腫などのがんが形成されるかは明らかにされていない。
 我々はこれらの疑問に答えるため、当研究所に設置されている次世代シーケンサーSOLiD(図1)を用いて、ヒト間葉系幹細胞(UE6E7T-3細胞, ステージ1)の長期間培養の各段階において全遺伝子発現解析を行った。その結果、培養初期の段階(ステージ2)でがん抑制遺伝子、DNA修復遺伝子、アポトーシス活性化遺伝子の過剰発現が見られた。細胞の特徴的な変化としては13番染色体の1本が欠落することであった。継代を重ねていくと(ステージ3)、がん抑制遺伝子の発現が急激に減少し、がん遺伝子、抗アポトーシス遺伝子、細胞周期関連遺伝子の発現が増大した。この段階では染色体異数性を伴う染色体不安定性が観察された。培養最終段階(U3-DT細胞, ステージ4)においては、成長因子に関連する遺伝子やDNA修復遺伝子の発現増大と細胞接着遺伝子の発現減少が見られた。特に培養初期の細胞(ステージ1)に比べて、130倍にも及ぶ発現増大が見られたのが糖蛋白質の一つであるグリピカン5(GPC5)遺伝子の発現であった(図2)。また、U3-DT細胞を免疫不全マウスに移植すると肉腫が形成された。GPC5遺伝子のノックダウン(si-RNA)実験では細胞増殖阻害が見られることから、GPC5ががん化した細胞の増殖に重要な役割を果たしていることが示唆された。
 これらの結果からUE6E7T-3細胞は長期間培養により、遺伝子発現や染色体構成のダイナミックな変化とともに、細胞が形質転換してU3-DT細胞へ変化することが明らかになった。本研究成果によって肉腫形成機構の解明が期待できる。またそれを基にした抗がん剤等の開発にも貢献できることが期待される。

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(図1) 医薬基盤研究所に導入されている次世代シーケンサー
Applied Biosystems® SOLiD™ 3 Plus System
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(図2) U3-DT細胞の蛍光顕微鏡像(赤色・GPC5蛋白質, 青色・核)

【用語】
継代・・・細胞分裂させて細胞数を増やし、新しい培地にその一部を植え継ぐこと。
間葉系幹細胞・・・多分化能を有する組織幹細胞。UE6E7T-3細胞はヒトの骨髄から採取された。

照会先 国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所
    共用機器実験室
    竹内昌男 赤木謙一
    TEL:072-641-9888

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