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お知らせ

薬剤耐性を引き起こすがんの多様性のメカニズムに迫るー染色体不安定性の新規メカニズムの解明ーに係る論文掲載について

2014年11月17日

独立行政法人 医薬基盤研究所

 独立行政法人医薬基盤研究所 プロテオームリサーチプロジェクトの朝長 毅プロジェクトリーダーと千葉大学大学院医学研究院分子病態解析学の風見隆浩研究員は、がんの多様性の原因となる染色体不安定性を引き起こす新しいメカニズムを発見いたしました。その研究成果が米科学誌Oncogene電子版に掲載されましたのでお知らせいたします。
 なお本研究は、文部科学省科学研究費補助金(医歯薬学分野(平成21年度採択))の成果です。

【原題】
Nuclear accumulation of annexin A2 contributes to chromosomal instability by coilin-mediated centromere damage

【邦題】
アネキシン A2の核内蓄積はコイリンを介したセントロメア損傷により染色体不安定性を引き起こす

【掲載誌】
Oncogene(2014年10月27日オンライン公開)

【概要】
 がん細胞は多様性に富み、変幻自在にその性質を変えることが、薬剤耐性を引き起こし、根治が困難な原因になると言われています。その多様性を生み出す原因の1つとして染色体不安定性という特徴がよく知られており、染色体不安定性はがんの悪性化や抗がん剤抵抗性の原因となっています。しかし、この染色体不安定性を引き起こすメカニズムはまだよくわかっていません。我々は、この染色体不安定性のメカニズムを解明することを目的に研究を行っています。
 我々はまず、タンパク質の網羅的解析法(プロテオーム解析法)を用いて、染色体不安定性を示す大腸癌細胞株(CIN+)と示さない細胞株(CIN-)の核タンパク質より染色体不安定性に関わる因子の同定を試みました。その結果、アネキシン A2(※1)がCIN+細胞株で発現増大している事を見出しました。アネキシンA2は種々のがんで発現増大していることが報告されていますが、その発現増大がどのようにがんの発生や悪性化と関係しているかは全く不明です。今回我々は、アネキシンA2の核内での蓄積が染色体不安定性の原因となっていることを発見しました。そのメカニズムとして、コイリン(※2)を介したセントロメアタンパク質CENP-AとCENP-Cの分解により、その量が減少するために起こることを見出しました。セントロメアタンパク質は、細胞分裂時に染色体が均等に分配するために必須のタンパク質ですが、アネキシンA2をCIN-細胞株の核内に高発現させると、CENP-A、CENP-Cの発現が低下して染色体不安定性が起こりました。逆に、CIN+細胞のアネキシン A2の発現を抑制すると、上記のセントロメアタンパク質の発現が回復し、同時に染色体不安定性の改善が認められました。これらの結果から、アネキシン A2の核内蓄積がセントロメアの機能を低下させることによって染色体不安定性を引き起こしていると考えられました。以上の結果は、これまで考えられていた染色体不安定性のメカニズムとは全く異なった新しい機序と言えるものです。
 染色体不安定性は抗がん剤耐性の主要なメカニズムと考えられており、本研究成果は、その抗がん剤耐性を克服する新しいがんの治療法の開発につながるものと期待しています。

※1:アネキシンA2
カルシウムイオン依存的にリン脂質に結合するタンパク質、アネキシンファミリーの一種で、種々のがんで発現増大が知られています。
※2:コイリン
核内構造体であるカハール体を構成する主なタンパク質で、RNA代謝に関わると言われています。


照会先: 独立行政法人 医薬基盤研究所
プロテオームリサーチプロジェクト
朝長 毅
TEL 072-641-9862

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