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お知らせ

ワクチンの効果を高める新規免疫核酸医薬の開発に成功

2014年2月10日

 JST 課題達成型基礎研究の一環として、独立行政法人 医薬基盤研究所の石井 健  プロジェクトリーダー(大阪大学 免疫学フロンティア研究センター兼任)や小檜山 康司 研究員らのグループは、北九州市立大学の櫻井 和朗 教授のグループと共同で、インフルエンザなどの感染症に対する強力なワクチンアジュバント(免疫活性化分子)注1)の開発に成功しました。

 アジュバントは、ワクチンの効果を高める目的で抗原注2)とともに投与される物質または分子であり、安全で効果的なワクチン開発のために、全世界でアジュバントの開発競争が行われています。これまで、合成核酸CpGオリゴデオキシヌクレオチド(CpG ODN)注3)と呼ばれる、短い配列の特殊なDNAが強いアジュバント効果を持つことが知られていましたが、いくつかの効果の強いCpG ODNは生体内で凝集を起こし不安定であったり、霊長類では効果が少ないなど実用化に向けて課題がありました。

 研究グループは今回、CpG ODNを多糖(β-1,3グルカン)で包んだ、新たなアジュバント(K3-SPG)の開発に成功しました。このナノ粒子のK3-SPGをインフルエンザワクチンと一緒に投与すると、マウスだけでなくカニクイザルでも強いアジュバント効果を発揮し、これまで懸念されていたマウスと霊長類での反応性の違いを克服できました。また、K3-SPGは接種後に速やかにリンパ節注4)へと移行し、リンパ節表面の細胞に特異的に取り込まれたあとに、強力に免疫細胞を活性化していることが明らかとなりました。

 今回の成果は、新規アジュバントの開発を大きく前進させるとともに、これまで効果が乏しかった抗がん薬や抗アレルギー薬をはじめ、感染症以外のさまざまなワクチンでの利用も期待されます。

 本研究成果は、2014年2月10日(米国時間)の週に米国科学誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」のオンライン速報版で公開されます。

<用語解説>
注1)ワクチンアジュバント(免疫活性化分子)
 抗原(ワクチン)の効果(免疫原性)を高める目的で抗原とともに投与される物質または因子の総称。自然免疫応答を活性化するものが多く、その中でも病原体由来のリポ多糖 (LPS)やDNAやRNAなどの核酸などが実験的によく使用されています。

注2)抗原
 ここでの抗原は病原体由来の生体内に非自己として認識されるたんぱく質のことである。抗原を認識し、アジュバントにより自然免疫応答を活性化することで、ワクチンの効果が発揮されます。

注3)CpG ODN
 病原体にはCpGモチーフという、特殊な塩基配列が確認できます。CpG ODNはその特殊な塩基配列を持つ合成された核酸の総称。CpG ODNはTLR9注7)によって認識され、自然免疫応答を活性化することができます。また、アジュバントとしても働くことが報告されており、臨床への応用が期待されています。

注4)リンパ節
 T細胞や、B細胞、抗原提示細胞などから構成される免疫組織。

<論文タイトル>
"Nonagonistic Dectin-1 ligand transforms CpG into a multitask nanoparticlulate TLR9 ligand"
(非刺激性Dectin-1リガンドがCpG ODNを複数の機能を持つナノ粒子状のTLR9リガンドに変化させる)

プレスリリースはこちら【PDF】

【お問い合わせ先】
<研究に関すること>
石井 健 (イシイ ケン)
  医薬基盤研究所 アジュバント開発プロジェクト プロジェクトリーダー
  大阪大学 免疫学フロンティア研究センター ワクチン学 教授
  〒567-0085 大阪府茨木市彩都あさぎ7-6-8
  Tel:072-641-8043 Fax:072-641-8079
  研究室ホームページ: http://www.nibiohn.go.jp/nibio/adjuvant/index.html

櫻井 和朗(サクライ カズオ)
  北九州市立大学 国際環境工学部 教授
  〒808-0135 福岡県北九州市若松区ひびきの1-1
  Tel:093-695-3294 Fax:093-695-3390
  研究室ホームページ:http://www.sakurai-lab.jp/

<JSTの事業に関すること>
  古川 雅士(フルカワ マサシ)
  科学技術振興機構 戦略研究推進部
  〒102-0076 東京都千代田区五番町7 K's五番町
  Tel:03-3512-3531 Fax:03-3222-2066
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