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お知らせ

''細胞内侵入抗体の迅速単離法'' 研究成果の論文掲載

2013年2月20日

 当研究所・バイオ創薬プロジェクト(プロジェクトリーダー 角田 慎一)の 向 洋平 研究員、大阪大学薬学研究科薬剤学分野の中川 晋作 教授らの研究グループは、次世代型抗体医薬の設計に有用な"細胞内侵入抗体の迅速単離法"を世界に先駆けて構築し、その研究成果が米科学誌Blood電子版に掲載されましたのでお知らせします。

 なお本研究は、大阪大学大学院薬学研究科、ハーバード大学医学大学院との共同研究の成果です。

細胞内侵入抗体の迅速単離法"の構築
~難治性がん等に対する次世代型抗体医薬の創出に向けて~

【原題】
Robo4 is an effective tumor endothelial marker for antibody-drug conjugates based on the rapid isolation of the anti-Robo4 cell-internalizing antibody
【邦題】
細胞内侵入抗体の迅速単離法により明らかとなった、抗体薬物複合体の標的としての腫瘍血管特異マーカーRobo4の有用性
【掲載誌】
Blood (2013年1月30日オンライン公開)
【概要】
 近年、がん細胞特異的に結合するモノクローナル抗体を分子標的薬として利用する、抗体医薬の臨床応用が拡大しつつあります。しかし、難治性のがんの中には、既存の抗体医薬に抵抗性であるなど十分な治療効果を発揮できないケースが多く存在します。そのような症例に対応し得る次世代型の抗体医薬として、モノクローナル抗体に抗がん剤を結合させた "抗体抗がん剤複合体(Antibody-Drug Conjugate; ADC)"の開発が期待されています。ADCは、モノクローナル抗体の優れた標的指向性と、抗がん剤の強力な細胞傷害活性を併せ持つため、従来の抗体医薬に抵抗性のがんに対しても有効で、かつ副作用も少ない治療が実現できるものと期待されます。しかし、通常抗がん剤は細胞内に入ってはじめて活性を示すものであるため、ADCに利用できるモノクローナル抗体は、標的に特異的に結合した後、細胞内に取り込まれる"細胞内侵入抗体"でなければなりませんが、これまでその効率的な探索法が存在せず、ADC開発における律速段階の一つとなっていました。
 この点、著者らは、細胞外では全く活性を示さないが、ひとたび細胞内に取り込まれると強力な殺細胞活性を発揮するタンパク性毒素(緑膿菌菌体外毒素フラグメント)に着目しました。著者らはモノクローナル抗体を作製する過程で、数百種類もの候補抗体を上記毒素との融合タンパク質として一挙に作製して標的細胞に作用させ、その細胞傷害活性(細胞の生死)を判定するだけで、細胞内侵入抗体を迅速かつ簡便にスクリーニングできる方法論を構築しました(図)。これまで、細胞内侵入抗体を単離するには多大な労力を費やすことが問題となっていましたが、今回構築した方法では、そのスクリーニング過程をわずか数日で完了することが可能となります。
 また、この方法の有用性を検証するため、腫瘍血管特異的な標的分子として期待されるRobo4に対する抗体作製へ適用したところ、優れた細胞内侵入性を有する抗Robo4抗体の単離に成功し、さらに、それをベースにしたADCが高い腫瘍増殖抑制効果を発揮することを示しました。以上の成果は、次世代型抗体医薬の開発を加速する技術であり、今後の難治性がんに対する新規治療薬の開発に大きく貢献するものと期待しています。

                               照会先: 独立行政法人医薬基盤研究所
                                       バイオ創薬プロジェクト
                                              向 洋平
                                         Tel: 072-639-7014

細胞内侵入抗体の迅速単離法.jpg

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