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お知らせ

    脳梗塞や神経難病の治療薬開発につながる
脳梗塞後の神経細胞生存に関わる機構を解明しました!!

2011年1月17日

【概 要】
 独立行政法人医薬基盤研究所(以下、基盤研:大阪府茨木市)の竹森 洋プロジェクトリーダー(代謝疾患関連タンパク探索プロジェクト)らと、大阪大学(大阪府吹田市)の北川一夫准教授(医学系研究科神経内科学)らを中心とする研究チームは、この度、脳梗塞後の神経細胞の生存・死滅を制御する新たな機構を解明しましたので報告致します。
 脳神経の活動は大量の生体エネルギーによって維持されています。そのため、脳は体の中で最も栄養(糖)と酸素を消費する臓器であると同時に、栄養や酸素の欠乏に非常に弱い臓器です。脳梗塞は、脳内に栄養と酸素を運ぶ血管が詰まる病態で、血流が遮断されたままの状態が続くと神経は死滅します。そこで、脳梗塞後はいかにすばやく血流を再開させることができるかの技術開発が着目されています。一方、低栄養・低酸素状態からの急激な血流再開(再灌流)もまた、活性酸素の発生などにより、神経細胞を障害することが明らかにされています(脳虚血再灌流障害)。
 脳虚血再灌流に際して、NMDA型グルタミン酸受容体を介した細胞内へのカルシウムイオン(Ca2+)の流入が神経細胞障害を引き起こす重要な因子であることが、従来より知られてきました。しかしながらNMDA受容体阻害薬を投与しても、臨床的には有意な効果は認められませんでした。近年、NMDA受容体にはサブタイプがあることが知られるようになり、NR2Aサブユニットを有するNMDA受容体は主に神経保護に、一方で、NR2Bサブユニットを有するNMDA受容体は主に神経障害的に働くことが報告されてきました。これらのことから、各サブユニットごとに下流のシグナル伝達機構がどのように異なるかを明らかにすることが重要であると考えられています。
 カルシウムイオン濃度の上昇はCaMK1/4(Ca2+依存的カルモジュリンキナーゼ1と同4)という因子を活性化し、次に、CREB(クレブ:遺伝子発現を調節する因子)を活性化させることで、下流の神経保護因子を誘導します。しかし、CaMK1/4がCREBを活性化する機構については十分に分かっていませんでした。今回の研究でCaMK1/4がTORC1/CRTC1(CREBの協力因子)を活性化する機構を明らかにしました。
 通常状態ではTORC1はその抑制因子であるSIK2(シック2)の作用によって細胞質で待機しています。CREBが活性化される状況では、SIK2の作用が阻害されてTORC1が核へと移行し、CREBによる遺伝子発現を助けます。脳梗塞後の再灌流時においても同様な現象が観察されますが、この時SIK2タンパクの量は減っていました。このSIK2タンパクの減少を促進する因子がCaMK1/4でした。
 バイオベンチャーのプロテイン・エクスプレス社(千葉市)から寄託されたSIK2を欠損したマウス(基盤研:疾患モデル小動物研究室分譲No.nbio071)と正常のマウスにおける脳虚血再灌流による神経障害の度合いを比較したところ、SIK2欠損マウスは再灌流障害が有意に低減されることが明らかとなりました。すなわち、SIK2を特異的に阻害できれば脳梗塞後の障害を軽減することが可能となり、寝たきりなどを防ぐ技術開発に役立つと期待されます。
 さらに、神経変性難病の多くも活性酸素が病態悪化の原因であり、CREBの制御方法の開発が鍵と考えられています。今回の発見は脳梗塞の分野に止まらず、認知症、神経変性疾患など多彩な神経難病分野への応用が期待されます。本成果はNeuron誌の1月13日号に掲載されました。

■ 論文題名:SIK2 Is a Key Regulator for Neuronal Survival after Ischemia via TORC1-CREB. [PubMed]

■ 解説記事:Balancing Life and Death in the Ischemic Brain: SIK and TORC Weigh In.

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