HOME › お知らせ › 悪性胸膜中皮腫の新規治療法を開発

お知らせ

悪性胸膜中皮腫の新規治療法を開発

2010年10月12日

 独立行政法人医薬基盤研究所の創薬基盤研究部長兼免疫シグナルプロジェクトリーダーの仲 哲治らは、がん抑制効果をもつSOCS3分子を用いた遺伝子治療が悪性胸膜中皮腫の新たな有効な治療法となる可能性を見出しました。
 この研究成果が、この度がん専門誌「Int J Cancer.2010」に掲載されましたのでお知らせいたします。

◎論文タイトル

「Overexpression of SOCS3 exhibits preclinical antitumor activity against malignant pleural mesothelioma」
(↑PubMedへリンク)

◎ 著者

独立行政法人医薬基盤研究所 創薬基盤研究部長兼免疫シグナルプロジェクトリーダー仲 哲治
独立行政法人医薬基盤研究所 免疫シグナルプロジェクト 特任研究員  岩堀 幸太
独立行政法人医薬基盤研究所 免疫シグナルプロジェクト 主任研究員  世良田 聡
独立行政法人医薬基盤研究所 免疫シグナルプロジェクト 主任研究員  藤本 穣
大阪大学大学院薬学研究科  分子生物学分野 教授            水口 裕之

【要 旨】   (別紙参照) 

 悪性胸膜中皮腫は主としてアスベスト(石綿)が原因となって生じる悪性腫瘍で、アスベストに曝露されてから数十年後に発症することが知られています。そのため、過去大量のアスベストを使用していた我が国において今後大幅な患者数の増加が予測されています。しかしながら悪性胸膜中皮腫は未だ有効な治療法がないのが現状で、新たな治療法の開発が緊急の課題となっています。
 今回我々は、癌抑制効果をもつSOCS3分子を用いた遺伝子治療が悪性胸膜中皮腫の新たな有効な治療法となる可能性を見出しました。
 近年がんに対する様々な分子標的治療薬が開発され、一部のがんでその有効性が示されていますが、悪性胸膜中皮腫に対して有効性が示されたものは未だありません。この理由として悪性胸膜中皮腫ではがんに関わる様々な異常が同時に起こっているため、単一の異常を抑える治療薬では効果が不十分なためと考えられます。これに対してSOCS3分子はがん細胞における様々な異常を抑制することが報告されており、悪性胸膜中皮腫の治療分子として有望と考えられます。
 今回我々は悪性胸膜中皮腫の細胞株を用いた実験で、SOCS3分子が、悪性胸膜中皮腫の様々な異常を抑制するのみでなく、代表的な癌抑制遺伝子産物であるp53の発現を亢進することも見出しました。
 そこで、SOCS3分子を用いて悪性胸膜中皮腫に対する治療を行うために、アデノウイルスベクターを用いた遺伝子治療法の開発を進めました。がんの特徴の一つとして転移が挙げられますが、悪性胸膜中皮腫は転移しにくいという性質があります。さらに、悪性胸膜中皮腫は胸腔内という局所で浸潤するため胸腔内へ治療薬を投与すれば、他臓器への副作用を最小限に抑えながら治療効果を発揮させることができます。
 我々は、ヌードマウスの胸腔内に悪性胸膜中皮腫細胞を移植した後にSOCS3アデノウイルスベクターを胸腔内投与することにより、悪性胸膜中皮腫細胞にSOCS3遺伝子を導入し抗腫瘍効果がみられることを示しました。
 すでに米国では悪性胸膜中皮腫におけるアデノウイルスベクターを用いた遺伝子治療の臨床試験が行われており、胸腔内局所投与の安全性が示されています。さらに我々は大阪大学大学院薬学研究科水口裕之教授(医薬基盤研究所幹細胞制御プロジェクトチーフプロジェクトリーダー)との共同研究で、ウイルスの増幅過程で増殖性ウイルスが発生しない新型のSOCS3アデノウイルスベクターを開発しており、従来よりも安全性の高い遺伝子治療を行うことが出来ます。
 そのため、SOCS3分子の悪性胸膜中皮腫に対する抗腫瘍効果と合わせ、SOCS3分子を用いた悪性胸膜中皮腫に対する遺伝子治療は将来有望な治療法になると期待されます。
 今後、大阪大学医学部附属病院未来医療センターおよび大阪府立呼吸器アレルギー医療センターにて、探索的臨床研究を行う予定です。

一覧へ戻る

このページの先頭へ