HOME › お知らせ › アデノウイルスによる免疫応答のメカニズムの一端を解明!!

お知らせ

アデノウイルスによる免疫応答のメカニズムの一端を解明!!

2010年9月21日

この度、独立行政法人医薬基盤研究所(大阪府茨木市)の幹細胞制御プロジェクト チーフプロジェクトリーダー 水口裕之らは、アデノウイルスベクターによって惹起される自然免疫応答のメカニズムの一端を解明し、この研究成果が「米国科学アカデミー紀要 (PNAS)」(2010 Sep 20)に概要が掲載されましたのでお知らせいたします。

論文タイトル:「Induction of type I interferon by adenovirus-encoded small RNAs」

著者
独立行政法人医薬基盤研究所 幹細胞制御チーフプロジェクトリーダー
兼 大阪大学大学院薬学研究科 分子生物学分野 教授      水口裕之
独立行政法人医薬基盤研究所 幹細胞制御プロジェクトリーダー     川端健二
大阪大学大学院薬学研究科 分子生物学分野 准教授       櫻井文教
大阪大学大学院薬学研究科 分子生物学分野 助教         形山和史
独立行政法人医薬基盤研究所 幹細胞制御プロジェクト研究員    山口朋子
独立行政法人医薬基盤研究所 アジュバント開発プロジェクトリーダー  石井 健
大阪大学免疫学フロンティア研究センター拠点長               審良静男

【要 旨】 (別紙参照)
 遺伝子治療の進展に最も重要な研究課題は、治療用遺伝子を効率よく安全に細胞内に送達するための運び屋(ベクター)の開発である。アデノウイルス(Ad)ベクターは、既存のベクターの中では最も遺伝子導入効率に優れており、遺伝子治療用ベクターとして汎用されている。
 しかし、Adベクターを生体内に投与した場合に生じる免疫応答が副作用として問題となっている。現在までに、Adベクターによって免疫応答を惹起させる細胞内のシグナル伝達機構、およびウイルス側の原因因子など詳細なメカニズムについてはほとんど明らかになっていない。
 そこで、(1)細胞側のどのようなシグナルがAdベクターにより活性化されるのか? (2)Adのどのような因子が免疫応答を惹起するのか?について今回明らかにした。
  ウイルスによる自然免疫活性化シグナルに重要とされる遺伝子(MyD88、RIG-I、Mda5、IPS-1)の欠損マウス由来細胞にAdベクターを作用 させた結果、RNAウイルスによる免疫応答に関与することが知られているIPS-1遺伝子欠損マウス由来細胞でAdベクターによるインターフェロン産生が 有意に抑制されていた。
 免疫応答を惹起するAd側の因子としては、ウイルスの殻であるカプシド(ウイルス表面)タンパク質、ウイルスゲノム DNA、およびウイルスの転写産物などが考えられる。上記の研究により、Adによる細胞内シグナルの活性化にRNAが関与している可能性が示唆されたた め、Adがコードする小分子RNA(VA-RNA)に着目し、VA-RNAの自然免疫応答における役割について検討を行った。
 VA-RNAを産生しないヘルパー依存性(Gutted)Adベクター(ウイルスゲノムをほぼ全て欠損したAdベクター)や、VA-RNA欠損Ad作用群では、顕著なインターフェロンの産生低下が観察された。
 以上より、Adゲノムから転写されるVA-RNAが細胞質内で自然免疫受容体に認識され、その後インターフェロンの産生を誘導する可能性がはじめて示された。
 今回、Adゲノムから転写されるVA-RNAによってインターフェロンの産生が惹起されることがはじめて明らかになったことから、VA-RNAを欠損したより安全な遺伝子治療用ベクターの開発が期待される。
  しかし、VA-RNAがウイルス複製において重要な役割を担っていることから、VA-RNA欠損Adベクターは増殖能が乏しく、ベクターの大量調製が困難 であるという問題点も有する。今後、VA-RNA欠損Adベクターの大量調製法の開発を行い、副作用の少ないより安全なAdベクターの開発を試みる予定で ある。
 また、本研究はVA-RNAを発現させることにより免疫応答をさらに増強することが可能なことも示しており、強力なワクチンの開発のためのアジュバンド開発にもつながることが期待される。

一覧へ戻る

このページの先頭へ