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お知らせ

クローン病等の治療薬につながる生物製剤の作用機序を解明

2010年8月10日

 独立行政法人医薬基盤研究所(大阪府茨木市)の創薬基盤研究部長 兼 免疫シグナルプロジェクトリーダー仲哲治らの研究チームと大阪大学(大阪府吹田市)の岸本忠三教授らの研究チームは、消化管難病の一つであるクローン病や潰傷性大腸炎などの炎症性腸疾患に対する抗※IL-6受容体阻害抗体と抗※TNF-α阻害抗体の作用機序の相違点について明らかにし、IL-6受容体阻害抗体がクローン病等に対する新規治療薬になり得ることを見出しました。
 この研究成果が米国の炎症性腸疾患専門誌である「Inflammatory Bowel Diseases」に掲載されましたのでお知らせします。

※IL-6(インターロイキン6):B細胞分化誘導分子として同定された炎症反応等を調整する多機能サイトカイン
※TNFα(腫瘍壊死因子):マクロファージや脂肪細胞から主に産生される炎症や免疫反応に関係するサイトカイン

【論文タイトル】
Comparative analysis of the effects of anti-IL-6 receptor mAb and anti-TNF mAb treatment on CD4(+) T cell responses in murine colitis.

【著者】
独立行政法人医薬基盤研究所 免疫シグナルプロジェクトリーダー 仲 哲治
大阪大学大学院生命機能研究科 免疫機能統御学 教授 岸本忠三
独立行政法人医薬基盤研究所 免疫シグナルプロジェクトサブリーダー 藤本 穣
大阪大学大学院医学系研究科消化器内科学 大学院生 寺部 文隆

【要旨】
  抗TNF-α阻害抗体であるインフリキシマブは免疫担当細胞にアポトーシスを誘導することで炎症性腸疾患であるクローン病に対して劇的な効果を持つとされ ています。関節リウマチに対して有効なエタネルセプト(TNFR-Fc)はTNF-α中和作用を持ちながらアポトーシス誘導作用を持たないことによりク ローン病には無効とされています。
 また、新規生物製剤である抗IL-6受容体阻害抗体(トシリズマブ)のクローン病に対する有効性は既に第Ⅱ相 試験で示されていますが、インフリキシマブとの治療効果や作用機序の違いについては不明でした。一方、近年IL-17を産生するTh17細胞と呼ばれる新 しいヘルパーT細胞サブセットが炎症性腸疾患に重要であるとの報告が相次いでおり、試験管内での実験ではTh17細胞はTGF-βとIL-6によりナイー ブT細胞より誘導されることが知られています。
 しかし、生体内では抗TNF抗体や抗IL-6受容体抗体投与下でTh17細胞を含めたヘルパーT細胞サブセットがどのように変化するかは不明でした。
 今回、仲哲治らの研究グループと岸本忠三らの研究グループはT細胞トランスファー腸炎マウスを用いて抗IL-6受容体抗体と抗TNF抗体のヘルパーT細胞への作用の違いについて明らかにしました。
 まず、抗IL-6受容体抗体と抗TNF抗体の有効性について病理スコアを比較したところ、両者とも有効でしたが、抗IL-6受容体阻害抗体が抗TNF-α阻害抗体よりさらに有効でした。また、エタネルセプトはヒトと同様マウス腸炎に対しても無効でした。
  抗IL-6受容体阻害抗体も抗TNF-α阻害抗体もT細胞の増殖を同程度に抑制しましたが、両者ともアポトーシス誘導作用は認めませんでした。また、抗 TNF-α阻害抗体には各ヘルパーT細胞サブセットへの影響はありませんでしたが、抗IL-6受容体阻害抗体はTh17細胞を抑制し免疫制御性T細胞 (Treg)の分化を促進することがわかりました。
 一方、ノックアウトマウスを用いた解析でヘルパーT細胞サブセットであるTh1細胞とTh17細胞の両者が腸炎に関与していることを明らかにしました。
 以 上より、これら生物製剤の共通した主な作用機序はTh1、Th17細胞を含めたヘルパーT細胞全体の増殖抑制作用であり、これに加えて抗IL-6受容体阻 害抗体のみがTh17細胞抑制作用と免疫制御性T細胞の分化促進作用を持つことがわかり、抗IL-6受容体抗体は、クローン病や潰傷性大腸炎などの新規治 療薬になり得ることが明らかになりました。
 また、抗IL-6受容体阻害抗体はTh17優位の病態やTregの減少した病態には抗TNF-α阻害抗体より有用である可能性が示唆され、これらの研究成果は病態による、より有効的な生物製剤の使い分けを考えるうえで重要な報告と考えられます。



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