2021.12.27
, EurekAlert より:
年をとるにつれ筋肉は徐々に小さく弱くなり、怪我が治りにくくなる。米国ピッツバーグ大学の研究者らは、マウスの筋肉で若さの重要なメディエーターを特定した。これは、高齢者の筋肉再生療法を進歩させる可能性のある発見だという。
『ネイチャー加齢』誌に発表されたこの研究は、細胞外小胞(EV)と呼ばれる循環シャトルが、クロトーとして知られる長寿たんぱく質の遺伝的指示を筋細胞に届けることを示している。高齢マウスの筋肉機能の喪失と筋肉修復の障害は、若いマウスよりもこれらの指示のコピーが少ない老化したEVのためである可能性がある。
本調査結果は、筋肉が再生する能力が年齢とともに減少する理由を理解する上で重要な進歩だという。
「私たちはいくつかの理由でこの研究に本当に興奮しています」と主任研究者のファブリシア・アンブロシオ准教授は述べている。「ある意味では、筋肉の再生がどのように機能するのか、そして加齢とともにどのように機能しなくなるのかという基本的な生物学を理解するのに役立ちます。そして、その情報をもとに、これらの加齢に伴う欠陥を打ち消すための治療法として細胞外小胞の利用を考えることができます。」
本研究は、高齢マウスに若年マウスからの血液を与えると、若々しい特徴が多くの細胞や組織に回復することを示す数十年にわたる研究成果に基づいている。しかし、これまで、若い血液のどの成分がこれらの若返り効果をもたらすかは不明だった。
「こうした運搬物は血液や他の体液を介して細胞間を移動するので、細胞外小胞が筋肉の再生に寄与するのではないかと考えました」と筆頭著者のアムリタ・サフ博士は述べている。「ボトルに入ったメッセージのように、EVは標的細胞に情報を配信します。」
アンブロシオ准教授と彼女の研究チームは、若いマウスから血球と凝固因子を除去した後に残る血液の一部である血清を収集し、それを損傷した筋肉を持つ高齢マウスに注射した。若い血清を投与されたマウスは、プラセボ治療を受けたマウスと比較して、強化された筋肉再生と機能回復を示したが、EVを除去すると血清の回復特性が失われ、これらの小胞が若い血液の有益な効果を媒介することが示されたという。
さらに研究チームは、EVが骨格筋の再生に重要な幹細胞の一種である筋肉前駆細胞に老化防止たんぱく質クロトーをコードする遺伝的指示またはmRNAを供給することを発見した。高齢マウスから収集されたEVは、若いマウスからのものよりもクロトーの指示のコピーが少なく、筋肉前駆細胞におけるこのたんぱく質の生成が低下した。
加齢とともに、元の筋肉構造を回復する代わりに瘢痕組織が沈着するため、損傷後の筋肉が充分に治癒しなくなる。以前の研究で、研究チームは、クロトーが筋前駆細胞の再生能力の重要な調節因子であり、このたんぱく質が年齢とともに低下することを示した。
今回の研究は、EV貨物の加齢に伴う変化が老化した幹細胞のクロトーの枯渇に寄与することを初めて示しており、EVが損傷した筋肉組織を治癒するための新しい治療法に発展する可能性があることを示唆しているという。
「EVは、高齢者の筋肉の再生能力を高め、損傷後の機能回復を改善するのに役立つ可能性があります」と、アンブロシオ准教授は述べている。「私たちが本当にワクワクしているアイデアの1つは、特定の貨物を持ったEVを設計し、標的細胞の応答を指示できるようにすることです。」
EVは、筋肉だけでなく、加齢による他の影響を逆転させるのにも役立つと研究チームは言う。先行研究は、若い血液が老化したマウスの認知能力を高めることができることを示しているという。アンブロシオ准教授とラドスヴェタ・コルダモヴァ教授は、加齢による認知機能低下に対するEVの可能性を探求するための研究を進めているところである。
出典は『ネイチャー加齢』。 (論文要旨)
|