2020.3.11
, EurekAlert より: 
「プレバイオティクス」と呼ばれる特定の食物繊維が、腸内細菌とそれらが生成する代謝物に影響を与えることにより、睡眠を改善し、ストレス回復力を高めることができた、というコロラド大学の動物実験。
食物繊維は消化器系の健康のためだけのものだろうか。再考が必要な時期に来たようだ。
「ここでの最大のポイントは、このタイプの繊維は便のかさ増しをして消化器系を通過するだけではない、ということです」と本研究の筆頭著者であるトンプソン氏は述べている。「腸内に住み、我々との共生関係を作り出している微生物に餌をやることで、私たちの脳と行動に強力な影響を与えているのです」
「プロバイオティクス」という言葉に馴染み深い人は多いだろう。これは、ヨーグルトやザワークラウトなどの発酵食品に含まれる、いわゆる「善玉菌」だ。
一方で、より最近の傾向として、科学者たちは「プレバイオティクス」に注目している。プレバイオティクスは大腸内の特定の細菌の増殖と活性を選択的に変化させることより、宿主に有利な影響を与え、宿主の健康を改善する難消化性食品成分のこと。オリゴ糖や一部の食物繊維などがこれにあたる。
食物繊維すべてがプレバイオティクスにはあたらないが、セイヨウネギ、アーティチョーク、タマネギ、特定の全粒穀物などの多くの繊維質の食品には豊富に含まれている。
この研究では、若い雄ラットを用いて2群に分け、標準的な餌またはプレバイオティクスを混ぜた餌のいずれかを与えるとともに、ラットにストレスをかける前後に一連の生理学的測定値を追跡した。
結果、先行研究での報告と同様に、プレバイオティクス食群では、ノンレム睡眠(深い眠り)の時間がより長かった。ストレスを与えた後には、同群はストレスからの回復に不可欠であるとされるレム睡眠(浅い眠り)の時間がより長くなることがわかった。
標準食群では、体温変動が不自然に平坦化し、ストレス後には腸内微生物叢の多様性の低下がみられた。反対に、プレバイオティクス群はこれらの悪影響は緩和されていた。
さらに、質量分析と呼ばれる技術を用いて、ラットの糞便サンプルを分析し、代謝物、つまり食物が分解されるときに細菌によって生成される生理活性分子を測定した。
彼らは、プレバイオティック食のラットが実質的に異なるメタボローム(代謝物の構成)を持っていることを発見した。それらは、腸-脳シグナル伝達経路を介して行動に影響を与える可能性のある脂肪酸、糖、ステロイドなど、数十以上の物質において、より高いことがわかった。ストレスを与えた後のメタボロームにも違いがみられたという。
たとえば、標準食群では、睡眠障害を引き起こす可能性のある代謝物・アロプレグナノロン前駆体とケトンステロイドの顕著な上昇が見られたが、プレバイオティック食群には認められなかったという。
今回の実験では非常に高容量のプロバイオティクスを用いていたことや、対象がラットであったことから、人間がプロバイオティクス豊富な食品を摂取するだけで良い睡眠を得られるかどうかは不明である。ただ、研究者らは今回の知見から、ストレス緩和のための物質を増強し、睡眠妨害をする物質を抑制するような治療薬の開発につながるのではと期待を寄せている。
出典は『サイエンティフィックレポート』。 (論文要旨)
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