2019.6.24
, EurekAlert より:
高塩分食が、がんの免疫において重要な役割をもつ免疫細胞の機能を変化させ、腫瘍の増殖を抑えたという。今後慎重な検討を重ねれば、がん免疫療法の改善に役立つかもしれない。ベルギー・フランダース生物工学研究所の動物実験から。
塩分を多く摂ると、高血圧や心血管疾患のリスク因子になることが知られている。過去の研究では、過剰な塩分が自己免疫に影響を与えることのほか、免疫細胞のバランスを攻撃的な状態に変え、自己免疫を悪化させる可能性も示されている。
興味深いことに、免疫細胞のバランスのこのようなシフトは、自己免疫の状態に関しては有害であるものの、理論的には腫瘍細胞に対する免疫攻撃を高め、がんの免疫療法においては有用であるかもしれないのだ。
クライネビットフェルド教授の率いる国際研究チームは、高塩分食が2種のマウスモデル各々において、腫瘍の増殖を抑制することを発見した。研究チームはさらに、この効果がある種の免疫細胞、いわゆる骨髄由来免疫抑制細胞(MDSC)の機能の変化に関連しているようであることを見出した。MDSCは、他の免疫細胞が腫瘍細胞を効率的に攻撃して排除するのを妨げると考えられている。
培養細胞を用い、塩分の多い環境においた実験で、研究チームはMDSCの機能の変化をみとめた。この環境下では、MDSCによる他の免疫細胞の妨害の程度が小さくなっていたのだ。また、ヒトのがん患者から採取した細胞を用いた場合も、高塩分濃度の環境によって同様の効果がみられた。
さらに動物実験では、MDSCがなくなってしまえば、マウスの腫瘍細胞の増殖に対する高塩分食の効果も消え去ることがわかった。
MDSCは、がん免疫療法において腫瘍に対する効率的な免疫攻撃を防いでしまう「主犯」ではないかとの疑いがある。したがって、これらの細胞の機能を阻害する根本的な分子メカニズムは治療的有効性を秘めている可能性がある。しかしながら、高塩分摂取はヒトの胃がんの危険因子であるとされているので、この研究結果やその背後にある分子メカニズムについては、今後の研究で慎重な検討が必要だ。
クライネビットフェルド教授は「今回の結果は非常に興味深いものであり、食事中の塩分を増やすだけで腫瘍の増殖にこのような影響があることに驚きました。しかし、その効果や詳細な分子的メカニズムを完全に理解し、がん免疫療法への有効性を判断するには、さらなる研究が必要です」と話している。
出典は『免疫学の最前線』。 (論文要旨)
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