2019.6.18
, EurekAlert より:
調理と農業が広まった後にヒトで一般的になった遺伝子変異が、糖尿病を避ける役に立っているかもしれない、という英国ユニバーシティコレッジロンドンからの研究報告。
「我々は、血糖調節の効率が異なる人々が食生活の変化による進化プロセスの結果であることを発見した」と主任研究者のフランセス・ブロドスキイ教授は語っている。
研究チームは、CLTCL1遺伝子を研究していた。それは我々の脂肪と筋肉細胞のなかでグルコーストランスポーターの制御に鍵となる役割を持つCHC22たんぱく質の生産を制御するものであった。
人々が食事をした後、インスリンが高まった血中グルコースを除去するためにトランスポーターを放出させ、それは筋肉と脂肪組織に移行する。食間には、CHC22たんぱく質の助けを借りて、グルコーストランスポーターは筋肉と脂肪中に残っているので、血中グルコースはそのまま循環を続ける。
研究チームは、ヒトゲノムおよび61の別の種のゲノムを解析し、CHC22を生産する遺伝子が進化の過程においてどのように変化してきたかを明らかにしようとした。
ヒトについては、グローバルな1,000人ゲノムプロジェクトから2,504名のゲノムが解析された。多数の民族グループを含む約半数の人々から、CHC22のある突然変異がみつかった。それは調理と農業を発達させた人々により一般的だったという。
研究チームは古代人のゲノムも解析し、その突然変異遺伝子が狩猟採集民族よりも古代および近代の農業集団により一般的であることを発見した。つまり炭水化物の摂取量が増加したことで、遺伝的適応が起きたと考えられるという。
細胞を用いた実験で、研究チームは、このより新しくできた突然変異CHC22は、グルコーストランスポーターを食間に筋肉と脂肪内に留めておく効果の弱いことを発見した。トランスポーターはより容易に血中に放出され血中のグルコースを取り込むので、この突然変異を持つヒトは、血糖値がより低くなる傾向があるという。
「古いバージョンの遺伝子は、古代人が飢餓のあいだに血糖値を高く保つのに役立っていた。炭水化物が容易に入手できないのでそれは我々の脳が大きく進化する役に立っただろう」と筆頭研究者のマッテオ・フマガリ博士は語っている。「時代が進み、我々がより容易に炭水化物を入手できるようになると、新しい遺伝子の方が有利になったのだろう。」
研究チームによれば、この遺伝子変異は糖尿病の発症に直接的に関与しているわけではないが、古いタイプの遺伝子を持つヒトのほうが糖尿病になり易いという。
「古い遺伝子をもつ人々は炭水化物の摂取により注意が必要だろう。だが、これら遺伝子変異が生理学的にどのようなインパクトをもつのかはさらに検討する必要があるだろう」とブロドスキイ教授は語っている。
出典は『eLife』。 (論文要旨)
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