2019.2.20
, EurekAlert より:
アスリートは激しい運動が陶酔感を惹起するエンドルフィンの分泌を促すことを知っているが、記憶力を改善しアルツハイマー病に対抗するもうひとつのホルモンも生み出すようだ、と米国コロンビア大学アーヴィング医療センターなどの研究者らが報告している。
身体活動が記憶力を改善し、アルツハイマー病のリスクも下げることがいくつかの研究で示唆されているが、その理由は不明であった。
数年前、イリシンというホルモンが、運動中に血液中に放出されることが発見され、一連の研究から、イリシンはエネルギー代謝に主たる役目を持つことが示唆されていた。
けれども、最近になってこのホルモンは、脳の海馬の神経の発達も促進することが発見されたという。
「この結果は、イリシンが身体活動によって記憶力を改善する原因ではないかという可能性を高めた。それはおそらくアルツハイマー病のような脳の疾患に対しても保護的に働くのではないかと考えた」と主任研究者のオッタヴィオ・アランシオ教授は語っている。
今回研究チームは、イリシンとアルツハイマー病の患者の間にある関連を初めて調べた。脳バンクからの組織標本を用いて、チームはイリシンがヒトの海馬に存在し、その濃度がアルツハイマー病患者では低下していることを発見した。
さらに脳におけるイリシンの役割探究するために、つぎにマウスを用いて検討を行った結果、イリシンは、脳のシナプスを保護し、記憶力を守ることが明らかになった。イリシンが海馬で利用できない健康なマウスでは、シナプスも記憶も弱まった。同様に、イリシン濃度が高まるとどちらも改善したという。
次に研究チームは、運動がイリシンと脳に与える影響を検討した。
5週間にわたってほぼ毎日泳がされたマウスは、βアミロイドの注射によっても記憶力の障害が発生しなかった。βアミロイドはアルツハイマー病の発症に関わると目される記憶障害の原因となるたんぱく質である。
ところが、薬物によってイリシンを阻害すると、水泳の利益は完全に失われてしまったという。
これらの発見を統合すると、イリシンはヒトの認知症の予防や治療の新たな手段になる可能性がある、とアランシオ教授は言う。彼の研究チームは現在、同様の効果をもつ薬物を探しているところである。
出典は『ネイチャー医学』。 (論文要旨)
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