2018.10.31
, EurekAlert より:
母乳中の薬剤耐性菌の量と質と母子の腸内細菌の関係について検討した、というフィンランド・ヘルシンキ大学からの研究報告。3つの発見があったという。
第一は、最低6か月の母乳哺育を受けた子供の腸内の耐性菌は、全くあるいはより短期間しか母乳哺育を受けなかった子供のそれに比べて少なめであった、ということ。つまり母乳哺育には子供を耐性菌から保護する効果があるかもしれないということ。
第二は、出産中の母親への抗生物質の投与は、子供の腸内の耐性菌を増加させる、ということ。この影響は出産と治療後6か月を経ても残存していた。
第三は、母乳には耐性菌が含まれており、母親はそれを母乳を通じて子供に移行させる可能性があるということ。とはいえ、母乳哺育は子供の腸内の耐性菌を低下させるので、明らかに母乳哺育は子供には有益であると思われる。
カタリーナ・パルナネンら研究チームは、16組の母子の母乳と糞便検体を解析した。母乳と糞便中のDNA配列が測定され遺伝子コードが明らかにされた。ただし、本研究は母乳中に見つかる母親のDNAを調べるものではなく、含まれる微生物のDNAを明らかにするものだった。チームはそこから大規模な母乳中細菌のライブラリーを作り上げた。
本研究では、抗生物質耐性遺伝子(ARG)に特に焦点が当てられた。そのような遺伝子は細菌をある種の抗生物質に対して耐性にする(薬剤耐性菌)。そのような遺伝子はしばしば細菌から別の細菌へと転移することができる。また個々の細菌はしばしば複数の抗生物質耐性遺伝子を持つため、複数の抗生物質に対して耐性をもつ。
本研究は、初めて実際に母乳が抗生物質耐性を細菌のもたらす遺伝子を有意な数含んでおり、これらの遺伝子がその宿主菌と同様に母乳を通じて子供に移行することを 証明した。母親は、彼女の腸内にいる耐性菌を母乳以外の経路によっても子供に移行させる。例えば直接摂食などによって。ただし、子供のもつ耐性菌が全て母親に由来するわけではなく、環境や他人などからくるものもある。
そのような事実はあるにせよ、本研究は、母乳哺育が全体としてみれば子供には有益に作用していることを支持する結果であるといえる。母乳には耐性菌が含まれるが、母乳中の糖は子供の腸内細菌の良好な基質となる。母乳はまた病原体を予防する有効な腸内細菌叢を形成する役に立つ。それが6か月の母乳哺育によって子供の腸内の耐性菌が少ない理由なのだろう。
「一般的なルールとして、母乳哺育の方が良いということは言えるだろう」とパルナネンは語っている。
出典は『ネイチャーコミュニケーション』。 (論文要旨)
|