2018.7.11
, EurekAlert より:
嫌悪感は、ヒトの祖先が感染を防ぐことに役立つよう進化した感情だと長年認識されてきた。新たな研究から、ヒトの嫌悪感システムは、病気にかかった人や疾患リスクのある人の周りで構築されることが示された。英ロンドン大学衛生熱帯医学大学院の研究。
この研究は、嫌悪感をその引き金となる背景によって6種に分類して分析した初めてのものだ。背景とはたとえば、皮膚の状態でいえば傷や火傷、食べ物なら腐敗していたり傷んでいたり、奇形のように形が悪くなっていたりということだ。今回得られた知見は、たとえば石鹸で手洗いをするとか、病気の兆候に対処するといった公衆衛生上のメッセージに目を向けることを助けるのではないか、と研究者は述べている。
今回の研究では、2500人以上の人を対象にオンラインで調査を行い、嫌悪感を引き起こすような75タイプの展開をみてもらった。たとえば明らかに感染の兆候のある人、膿だらけの皮膚病変、虫のあふれる物体、くしゃみの音、屋外での排便、などといったものだ。被験者には、それぞれに対して嫌悪感の強さを評価してもらった。
その結果、あらゆる展開の中で最も嫌悪感の強かったものは、膿を出す感染性創傷であった。また、衛生規範の侵害―たとえば体臭のきつさも特に嫌悪感を抱かせることもわかった。被験者の反応の分析により、嫌悪感を代表的な6種類に分けることができた。そしてそれは、わたしたちの先祖が過去に定期的に経験したタイプの感染症の脅威に関係があったという。歴史的な例をあげると、腐敗した食物を食べるとコレラなどの病気につながり、非健康的な人に近づくとハンセン病に感染し、相手構わぬ性行為の習慣があれば梅毒のリスクが、そして開いた傷に触れればペストや天然痘の感染につながる・・・などというおそれがあった。
今回の結果により、動物が感染のリスクを下げるための行動を取るよう促すために嫌悪感が進化した、という「寄生虫回避説」が確認された。この行動は、ヒトにおいても嫌悪感が特定の方法を取るよう合図をする場合に再現され、感染のリスクを最小限にする。
研究者のカーティス教授は「嫌悪感は我々にとって良いものだということはわかっていましたが、今回私たちは、嫌悪感が感染の脅威を認識して反応し、自分を守るために構造化されていることを明らかにしました。この種の、疾患を回避する行動は動物においてはっきりしており、進化論的には非常に古くからあると考えられます。このように、嫌悪感についての理解を深めることは、疾患を回避するためのメカニズムに対する新たな洞察をもたらし、動物や人間が健康でいるための環境を保つための新しい方法を開発する手助けになります」としている。
なお、興味深いことに、今回の調査結果には男女差があり、女性は全般的に男性に比べて嫌悪感が強いことが示された。これは、平均的に男性の方が女性より危険な行動をするという事実と一致している。特に女性が嫌悪感を示すのは、危険な性行動と動物が媒介する疾患だったとのことだ。
出典は『英国王立協会哲学論文集・シリーズB、生物科学』。 (論文要旨)
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