2018.2.19
, EurekAlert より:
免疫系の加齢は、これまでに考えられていたよりも、がんの発生に大きな役割を果たすことが示唆された、というスコットランド、ダンディー大学からの研究報告。がん予防の鍵は、遺伝子変異ではなく免疫系にあるかもしれない。
遺伝的素因、あるいは、生活習慣や環境などの要因の結果として起こる突然変異が、がんを引き起こすことは、何十年も前から知られてきた。従来の見解では、1つの細胞において複数の変異(一般的には5〜6回)があるとがんが発症するとするならば、がんの発生率が年齢とともに増す仕組みを理解し定量化できると考えられてきた。
この研究では、がんの発生の増加には、複数の突然変異よりも、年齢による免疫系の低下が寄与している可能性が示唆された。
研究チームは、免疫系の加齢ががんの発生率を上昇させるという仮説に基づき、18〜70歳の200万人について、がんのデータを調べた。その後、研究者らは、免疫系の低下に関連してがんの発生率がどのように上昇するか予測するモデルを開発し、この予測を100種類のがんの年齢プロファイルと比較した。
このモデルは、複数の突然変異に基づく仮説に比べ、データの適合度が高かった。免疫系は一般に男性よりも女性ではゆっくりと低下するため、がんの発生率の性差については、突然変異だけでは説明が難しいが、このモデルを用いると説明できるという。
このことは、以前に考えられたよりも、免疫系の低下が、がんの発症にはるかに大きな役割を果たす可能性があることを示唆している。
免疫系の加齢の主な原因は、胸腺退縮(胸腺の委縮)である。胸腺では、T細胞が産生される。T細胞は、身体を循環して、機能不全の細胞または外来物質を死滅させる。
胸腺退縮は1歳前後から始まり、胸腺は16年で大きさが約半分になり、それに応じてT細胞の産生が低下する。研究者らは、特定のがんの可能性が増加することと新たなT細胞の数が減少することには、非常に強い相関があることを見出した。
研究チームが考えたモデルでは、T細胞とがん細胞との戦いを想定している。この戦いでは、がん細胞が一定の閾値を超えて増殖すれば、がん細胞が勝つことになるが、この閾値はT細胞が産生される量に比例して年齢とともに低下するものと考えた。そして、このように考えると、がん発生率のデータの多くを説明できるという。
出典は『国立科学アカデミー論文集』。 (論文要旨)
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