(これは、第1期中期計画の食品成分有効性評価及び健康影響評価の研究成果の一部です。)

カルニチン

要約
カルニチンは国内では約50年ほど前より心臓病の治療薬として用いられてきたが、最近では脂肪酸燃焼によるダイエット効果が標榜される「いわゆる健康食品」成分として注目されている。





?カルニチンについて?

1.L-カルニチンとは

 L-カルニチン(図?1)はリジンとメチオニンの2つのアミノ酸から肝臓や腎臓において合成される生体成分である。L-カルニチン は、体内では骨格筋や心筋などに多く存在し、筋肉細胞へ遊離した長鎖脂肪酸の受け渡しなど栄養成分の代謝に重要な働きをしている。また、光学異性体であるD型カルニチンは競合的にL-カルニチンの活性を阻害すると考えられている。

図?1 L-carnitineの構造



 L-カルニチンは、人間の体内で造られる微量成分である。L-カルニチンは、肉などから摂取される他、体内でも生合成が可能であるが、年齢とともにその生成量は低下することが知られている(図?2)(1)。国内では約50年ほど前より心臓病の治療薬として用いられてきたが、2002年12月より食品としての利用が認められている成分である。近年、L-カルニチンの生理機能に着目し、脂肪酸燃焼によるダイエット効果が標榜される「いわゆる健康食品」成分として注目されている。

図?2 ヒト骨格筋中のカルニチン量の加齢による変化



2.生体におけるL-カルニチンの役割

 L-カルニチンは2つの主な機能を有している。一つは、体内で脂肪酸残基(アシル基)などの受容体あるいは供給体として機能しミトコンドリア内へアシル基などを運搬する役割である。L-カルニチンが媒介するアシル基として、長鎖脂肪酸、分岐鎖アミノ酸のアミノ転移産物であるα-ケト酸、アセチル基およびプロピオニル基などが知られている。(2,3)

 L-カルニチンの脂肪燃焼機能は、長鎖脂肪酸(パルミトイル基など)が基質となって生じるβ-酸化の亢進が古くより知られている。すなわち、細胞質内に取り込まれた遊離脂肪酸がCoAに受容されアシルCoAになる。次に、カルニチンアシルトランスフェラーゼIによってアシル基はL-カルニチンと結合しアシルL-カルニチンが生成する。このアシルL-カルニチン結合体はミトコンドリア内膜を通過することが可能であり、結合した脂肪酸はミトコンドリア内部マトリックスでβ-酸化を受け脂肪が燃焼される(図?3)。

図?3 脂肪酸のミトコンドリア膜透過におけるL-カルニチンの役割



 分岐鎖アミノ酸の一部は、アミノ転移酵素の作用によりα-ケト酸を生じる。α-ケト酸はCoAを介してL-カルニチンと結合し、ミトコンドリア膜を通過し燃焼される。

 アセチル基も同様に、酵素の作用によりアセチルCoAを生成する。アセチルCoAはL-カルニチンの作用によりCoAを遊離しアセチルL-カルニチンと結合する。アセチルCoAはTCA回路へ移行し、一方アセチルL-カルニチンは細胞質外へ搬出される。


 L-カルニチンのもう一つの機能として、ミトコンドリア内の遊離CoAに対するアシルCoAの割合を調節する機能があげられる。この機能は、ミトコンドリア内に生じた短鎖脂肪酸や中鎖脂肪酸(潜在的に毒性を示す)をミトコンドリア外へ運び出す働きをしたり、ミトコンドリア内でエネルギー代謝を維持するために遊離のCoAを細胞内に十分量維持する働きに非常に重要になる(4)。


 以上のようにL-カルニチンは、細胞内のミトコンドリアにアシル基(脂肪酸など)を運ぶ役割と細胞内遊離CoAのホメオスタシスに重要な役割を担っており、様々な基質の生体内消費と細胞内環境に必要不可欠な生体成分である。


3.L-カルニチン摂取量の目安

 日本人の場合、1日あたり200 mgが必要量と考えられている。厚生労働省は、1日あたりの摂取目安量を約1000mgとし、供給者は過剰摂取の防止に対する配慮や消費者への情報提供を行うことが勧告されている(5)。アミノ酸の一種であるため必要量以上に摂取しても代謝され排出される可能性が高く比較的安全な食品成分と考えられる。また、体内で生成するL-カルニチン量は1日あたり約20mgと考えられており、これは1日あたりに必要なL?カルニチン量(200 mg)の10%程度にしか過ぎない。一方、食事で摂取できるL-カルニチンは1日当たり100?300 mg程度と考えられているが、L-カルニチンの生合成量は20代をピークに減少する。従って、L-カルニチンの摂取量は、食事環境や加齢に応じて、その摂取量を増加することが望ましいと思われる。

 一方ラットにおける急性毒性試験から得られるLD50は、製品によって大きなばらつきがあるが、いずれも広い安全摂取域(例:LD50 = 5 g?14.0 g/kg以上)と考えられる。



4.L-カルニチンの生理的有効性


4?1.循環器疾患に関連する効果
 狭心症に関する有効性として、Cacciatoreらは、40歳から65歳までの安定した狭心症患者100名へ2gのL-カルニチンを半年間経口投与し、休息時の心室性期外収縮(PVC)の有意な低下と運動耐性の向上などの効果を示している(6)。また、Cherchiらは安定した狭心症男性患者44名に1gのL-カルニチンを1日2回4週間経口投与し、L-カルニチン摂取群はプラセボ群と比較して運動耐性が有意に向上する結果を得ている(7)。

 また、心筋梗塞後の合併症等への有効性も示されている。Singhらは、急性心筋梗塞が疑われる患者51名に2g/dayのL-カルニチンを28日間摂取させ、50名のプラセボ群と比較検討を行っている。その結果、L-カルニチン摂取群において梗塞グレードの指標であるQRS-scoreの有意に小さな値と細胞障害の指標となるASTおよび脂質過酸化の有意な低下を観察している。また、プラセボ群と比較してL-カルニチン摂取群は狭心症、左心室肥大および不整脈が有意に低かった(8)。同様の作用がIlicetoらによっても報告されている( 9)。Daviniらは、12ヶ月間4gのL-カルニチンを心筋梗塞と診断された患者81名(男女を含む年齢39?86歳)に経口投与したところ、L-カルニチンを摂取しない対照群と比較して有意な心拍数の改善、収縮期の動脈圧の改善、脂質パターンの改善などが示され、加えてL-カルニチン摂取により死亡率の有意な低下も示されている(10) 。



4?2.腎機能改善効果
 透析を受ける腎疾患においてカルニチンの経口摂取あるいは静脈投与は透析によって失われたカルニチン欠乏を補うために必要な処置とされている(11)。しかし、Hurotらは透析患者にL-カルニチンの投与実験をおこない、透析患者の血清脂質濃度に及ぼす影響、貧血とエリスロポエチン(EPO)要求に及ぼす影響、不整脈、心筋機能、無力症、運動能力などに及ぼす影響についてメタ分析を行っている(12)。その結果、透析患者へのL-カルニチン投与は、TG濃度、総コレステロール濃度や他の脂質濃度に対して影響を示さなかった。一方、ヘモグロビン値の改善とEPO投与の減少あるいはEPO耐性の改善効果が観察されている。このことより、透析を受けている患者へのL-カルニチン投与は、脂質代謝異常の改善に対して推奨される処置ではないが、貧血の改善には積極的に使用することを勧めている。



4?3. AIDS患者のリンパ球に及ぼす影響
 Cifoneらは、1日当たり6gのL-カルニチンを5日間与えたAIDS患者10名から採取したCD4とCD8細胞のアポトーシスに及ぼす影響を調べ、4名の患者においてアポトーシスの細胞内メッセンジャーである抹消血単核細胞関連セラミドの有意な減少を認め、アポトーシス性CD4-とCD8-ポジティブ細胞の減少と正の相関を観察している。これはL-カルニチンが効果的に抗アポトーシス作用を示し、AIDS患者の治療に効果的であることを示したものである(13)。また、MorettiらはL-カルニチンがFas誘導のアポトーシスとセラミド産生を阻害することを観察している(14)。また、彼らは6gのL-カルニチンを4ヶ月間HIV-1感染者へ与えたところCifoneらと同様にアポトーシス性CD4とCD8 T cellの発生頻度の低下を観察している。しかし、彼らは臨床的な改善効果までは観察していない。



4?4.その他の作用
1) 不妊症に対する有効性について、Lenziらは60名の不妊症男性患者へL-カルニチン(2 g/d)と L-アセチル-カルニチン(1 g/d)を6 ヶ月間与えたところ精子の運動が改善したことを報告している(15)。しかし、妊娠との関連性に有意な差は認めていない。

2)甲状腺機能亢進は血中カルニチン濃度の低下を生じることが知られているが、Benvengaらは、2?4g/日のカルニチン摂取により甲状腺機能亢進に伴う症状が有意に改善することを報告している(16)。

3)バルプロ酸の服用は、カルニチン欠乏を引き起こす。Van Wouweらはバルプロ酸治療を行う患者に15 mg/kg body weightのカルニチン投与を行ったところ、1週間でカルニチン欠乏から回復することを示唆している(17)。Raskindらはバルプロ酸治療を受けている患者へのカルニチンの役割をレビューしている(18)。その中で、カルニチン摂取はバルプロ酸摂取によって引き起こされる肝毒性やバルプロ酸過剰投与によって引き起こされる障害に対して有効とされている。特に、子供のカルニチン欠乏にはカルニチン投与を勧めている。Bohlesらは、バルプロ酸によって起こる高アンモニア血症にもカルニチンの摂取は効果があると報告している(19)。

4) 先天性代謝異常によるカルニチン欠乏症に対し、カルニチンの経口あるいは静脈投与により有効であることが知られている(20) 。


 このように臨床的なL-カルニチンの利用の多くは、欠乏症を補うために投与する事例が多いことが分かる。


5.近年の話題


 L-カルニチンには以上に示したような様々な生理機能が報告されているが、生化学的には、脂肪酸やα-ケト酸などの基質が代謝を受ける過程でミトコンドリア膜透過に必要な成分として関与している。特に、脂肪酸の代謝においては、その後のβ-酸化に大きく関係することから、その細胞内濃度は脂肪酸のミトコンドリア膜透過に大きく影響を及ぼすものと考えられている。

 近年、生活習慣病の増加に伴い、リスク因子である肥満の予防あるいは改善に関心が集まっている。L-カルニチンの生理機能を考えれば、脂肪細胞の脂肪酸化に有効な作用を促し、脂肪燃焼の亢進による体脂肪低減効果が期待される。これまで、L-カルニチンの経口摂取が、人において肥満の改善効果を示す報告はほとんど認められず、また動物においても体重増加量の低下や体脂肪の減少に関する効果に否定的な報告が見られる(21, 22)。この様に、必ずしも肥満に対するエビデンスがin vivo実験で得られていないのが現状である。L-カルニチンが生体内での機能を効果的に発揮するためには、細胞内濃度の調節が必要と考えられる。しかし、細胞内では遊離のCoAとアシルCoAバランスの恒常性が維持されており、果たしてL-カルニチンの経口摂取が肥満解消を促すようなβ-酸化の亢進を誘導するのか興味深い。



 以上L-カルニチンについて紹介した。L-カルニチンは薬として使用されてきた経験が長く、また生体成分でもあり、安全性上大きな問題はないと考えられるが、「いわゆる健康食品」として摂取されたL-カルニチンによって、脂肪燃焼によるダイエット効果が発揮されるのか、疑問点が残されており、これらは今後の検討課題と思わ れる。

【永田純一】


引用文献

1.Costell M. O'Connor J. E. Grisolia S. Age-dependent decrease of carnitine content in muscle of mice and humans. Biochem Biophys Res Commun. 161(3):1135-43 (1989). PMID: 2742580

2.生化学事典 東京化学同人

3.王堂 哲. L-カルニチンと脂肪燃焼, 食品工業 46: 1-5 (2003) PMID: 10524357

4.Mpietrzak I. Opalish G. The role of carnitine in human lipid metabolism. Wiad Lek 51: 71-75 (1998) PMID: 9608835

5.厚生労働省医薬局食品保健部基準課長 食基発第1225001号 平 成14年12月15日

6.Cacciatore L. Cerio R. Ciarimboli M. Cocozza M. Coto V. D'Alessandro A. D'Alessandro L. Grattarola G. Imparato L. Lingetti M. et al. The therapeutic effect of L-carnitine in patients with exercise-induced stable angina: a controlled study. Durugs Exp. Clin. Res., 17: 225-235 (1991) PMID: 1794297

7.Cherchi A. Lai C. Angelino F. Trucco G. Caponnetto S. Mereto P. E. Rosolen G. Manzoli U. Schiavoni G. Reale A. et al. Effects of L-carnitine on exercise tolerance in chronic stable angina: a multicenter, double-blind, randomized, placebo controlled crossover study. Int. J. Clin. Pharmacol. Ther. Toxicol., 23(10): 569-572 (1985) PMID: 3905631

8.Singh R. B. Niaz M. A. Agarwal P. Beegum R. Rastogi S. S. Sachan D. S. A randomized, double-blind, placebo-controlled trial of L-carnitine in suspected acute myocardial infarction. Postgrad. Med. J., 72: 45-50 (1996) PMID: 8746285

9.Iliceto S. Scrutino D. Bruzzi P. D'Ambrosio G. Boni L. Di Biase M. Biasco G. Hugenholtz P. G. Rizzon P. Effects of L-carnitine administration on left ventricular remodeling after acute anterior myocardial infarction: L-Carnitine Ecocardiografia Digitalizzata Infarto Myocardico (CEDIM) trial. J. Am. Coll. Cardiol., 26: 380-387 (1995) PMID: 7608438

10.Davini P. Bigalli A. Lamanna F. Boem A.Controlled study on L-carnitine therapeutic efficacy in post-infarction. Drugs Exp. Clin. Res., 18:355-365 (1992) PMID: 1292918

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19.Bohles H. Sewell A. C. Wenzel D. The effect of carnitine supplementation in valproate-induced hyperammonaemia. 85: 446-449 (1996) PMID=8740302

20.Pharmacist's Letter/Prescriber's Letter Natural Medicine Comprehensive Database, 5th ed. Stockton, CV: Therapeutic Research Faculty (2003) ((独)国立健康・栄養研究所監訳:「 健康食品」データベース(日本語版)2004(第一出版)

21. Melton S. A. Keenan M. J. Stanciu C. E. Hegsted M. Zablah-Pimentel E. M. O'Neil C. E. Gaynor P. Schaffhauser A. Owen K. Prisby R. D. LaMotte L. L. Fernandez J. M. L-carnitine supplementation does not promote weight loss in ovariectomized rats despite endurance exercise. Int. J. Vitam. Nutr. Res. 75(2):156-60 (2005) PMID=15929637

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