鉄欠乏性貧血患者の血液中ヘム生合成の異常と微量元素の変動

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 鉄欠乏状態は地球上で最も頻度の高い栄養障害であり、WHOは世界人口の約80%に相当する40?50億人が鉄欠乏状態と推定しています。

 また、約20億人が貧血の症状を持っていますが、その原因は主として鉄欠乏状態です。鉄欠乏状態は発展途上国のみならず先進諸国においても非常にポピュラーな疾患で、とくに、幼児、妊娠適齢期の女性、および高齢者に認められます。

 この原因として、発展途上国では栄養障害が、先進諸国ではバランスの取れていない食事が指摘されています。

 生体内の鉄はプロトポルフィリンとキレートしたヘム(heme)として、酸素の運搬・貯蔵、薬物代謝、エネルギーの生産、細胞間情報連絡、活性酸素の除去など生命維持に不可欠な生化学的反応に関与しているため、鉄欠乏状態は全身疲労、イライラした症状、抑うつ気分、頭痛、体力と作業能率の低下、感染抵抗力低下、蒼白、脱毛、脆弱爪など全身の症状が認められます。

 また、鉄欠乏状態が長期に持続すると重篤となり、赤血球の生成が低下し、鉄欠乏性貧血症となります。

 したがって、鉄欠乏に関しては人類の健康に関与する重要な問題であることから、鉄欠乏の診断、治療および発症機序に関する多くの国際的研究があります。しかし、鉄以外のミネラルの動態に関与する研究は殆どありません。

 そこで、血液検査によって診断された鉄欠乏性貧血患者12例について、鉄欠乏性貧血症の指標として注目されている亜鉛結合プロトポルフィリン(zincprotoporphyrin,ZP)量およびヘム合成に関与するδ‐アミノレブリン酸脱水酵素(ALAD)およびポルフォビリノーゲン脱アミノ酵素(PBGD)の両酵素活性を筆者らが新規開発した方法にて測定した結果、すべてが健常者に比して有意に高値を示しました(表1)。

 これらの理由はヘム合成酵素の基質である鉄が不足するためにヘムが生産されず、その結果ヘム減少によるde-repression機構によってこれら諸酵素活性が上昇するものと推測されます。いずれにしても、とくにZPは鉄欠乏性貧血症の診断指標として有用であり、国外の先進国では鉄欠乏性貧血症の診断を目的とした簡易な自動測定機器が開発されています。

 一方、このような典型的な鉄欠乏性貧血患者の血液中の各種微量元素濃度を誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS)によって分析した結果(図1)、鉄欠乏性貧血症ではK, Mn, Fe, Se, Rbが対照値に対して有意に減少していました。

 これと逆に、Mo,Baの平均値が、各々3倍および6倍高値でした。これらの結果についてはこれまでに報告がなく、鉄欠乏性貧血症の発症、予防および治療に際して重要な知見であり、鉄欠乏性貧血症では鉄の減少によって他の多くの元素の濃度に影響を与えることがわかりました。

 たとえば、Kの減少は生体内のミネラルバランスなどに、また、Mn, Seの欠乏は生体内の酸化ストレスなどに、各々影響を与えることから、鉄欠乏性貧血症の予防および治療には鉄以外にこれらミネラルの補給も必要です。

 今後、鉄欠乏の予防および治療に関しては、体内のミネラルバランスの重要性が議論されるでしょう。【近藤雅雄】






出典:Iron deficiency anemia: elements and heme biosynthetic system in blood: Kondo M, Miyamoto M, Aiba N, Mori M, Urata G: Porphyrins; 14 : 99-104, 2005

ニュースレター「健康・栄養ニュース」第4巻3号(通巻14号)平成17年12月15日発行から転載


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